大判例

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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)5724号 判決

原告

第一実業株式会社

右代表者代表取締役

倉持修

右訟訴代理人弁護士

野田純生

井上省三

山田秀雄

被告

小西六写真工業株式会社

右代表者代表取締役

井手恵生

右訴訟代理人弁護士

山田正明

右補助参加人

破産者双葉トレーディング株式会社破産管財人

大下慶郎

右訴訟代理人弁護士

納谷広美

清水謙

鈴木銀治郎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用及び参加によつて生じた費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金五九〇万円とこれに対する昭和六〇年一一月四日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文第一項と同旨。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五九年八月二一日、訴外破産者双葉トレーディング株式会社(以下「破産者」という。)との間で、株式会社マキ製作所製造のパトローネ整列用ラインフィーダー二〇一〇型四台(以下「本件ラインフィーダー」という。)を代金五九〇万円で売り渡す旨の売買契約を締結し、同年一一月二九日、破産者に対し、その指定する訴外株式会社輸送機工業(以下「訴外会社」という。)に納入してこれを引き渡した。

2(一)  破産者は、原告から買い受けた本件ラインフィーダーと訴外会社から買い受けたフィルム包材搬送コンベア一式(以下「本件コンベア」という。)及び訴外平賀機械工業株式会社から買い受けた樹脂缶供給機一式(以下「本件供給機」という。)とを訴外会社に依頼して合体、取り付けをして、MUP―Iパトローネ搬送、樹脂缶供給装置一式(以下「本件装置」という。)を製作し、昭和五九年九月六日、被告に対し、これを代金二八八〇万円、代金の弁済期昭和六〇年一一月三日とする約定で売却し、同年二月一六日、引き渡した。

(二)(1)  破産者は、本件ラインフィーダー等を合体、取り付けて製作した本件装置を被告に対して売却しているのであるから、本件ラインフィーダーは、本件装置の一機成部分にすぎず、独立した取引対象物といえないかのようであるが、本件ラインフィーダーは、もともと独立した単体としても取引の対象となるものであつて、本件装置の構造上からしても、本件ラインフィーダーを毀損することなく、容易に取り外すことができるのであるから、本件ラインフィーダーは、独立の商品として、被告に売却されたものというべきである。

(2)  本件装置の代金は、本件ラインフィーダーの代金(五九〇万円)と本件コンベアの代金(一七六〇万円)及び本件供給機の代金並びにこれらを接続組み立てた経費及び運賃等の諸経費並びに破産者の利益から成るものであつて、本件ラインフィーダーの代金を明確に判別できるものであるから、本件装置の代金のうち、本件ラインフィーダーの代金に相当する部分に対しては、先取特権を行使できるというべきである。

(3)  動産と動産が簡便な接続方法によつて一体となつて製品化した場合でも、製品から、右動産を毀損せずに分離可能であり、これを特定・識別できる場合には、一体化した製品の代金に対しても、右動産の売買先取特権の効力が及ぶものというべきである。したがつて、本件ラインフィーダーも本件装置から毀損せずに分離可能であつて、これを特定・識別ができるのであるから、本件装置の代金に対し、本件ラインフィーダーの売買代金に基づく先取特権の効力が及ぶというべきである。

しかも、先取特権に基づく物上代位は、目的物の価値代表を追及していくことに重要な狙いがあるのだから、目的物の価値代表以外の価値を包含する場合でもなおこれに対して追及することができるというべきである。

3  原告は、昭和六〇年四月五日、東京地方裁判所昭和六〇年(ヨ)第二〇三三号仮差押申請事件において、同裁判所により、原告の破産者に対する約束手形金債権を被保全権利として、本件ラインフィーダーの売買代金額に満つるまで、破産者の被告に対する本件装置の売買代金債権を仮に差し押える旨の決定を得た。

4  よつて、原告は、被告に対し、動産売買の先取特権の物上代位に基づき金五九〇万円とこれに対する弁済期の翌日である昭和六〇年一一月四日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2のうち、本件装置に本件ラインフィーダーが使用されていること、代金額及び代金の弁済期が原告主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。

被告は昭和五九年九月一〇日、破産者に対し、本件装置の製作工事を代金二八八〇万円で請け負わせたものである。

3  同3の事実は認める。

三  被告及び補助参加人の主張

1  破産者は、昭和五九年九月一〇日、被告から本件装置の製作工事を代金二八八〇万円で請け負い、そのうち、原告に対し、本件ラインフィーダーの、訴外会社に対し、本件コンベアの、訴外平賀機械工業株式会社に対し、本件供給機の各製作工事を請け負わせたうえ、これらの引き渡しを受けて、一つの機械としての本件装置を製作完成し、昭和六〇年二月一八日、これを被告に引き渡した。

本件装置の製作工事に関する契約は、被告の指図に従い、これに合わせて設計、仕様がされていること、製作に伴う工業所有権、発明、考案に関しても明確な基準を作つていること、代金も工事完了、検収終了後に支払われること等からすると、本件装置の売買ではなく、その請負契約というべきである。

そして、本件装置の代金は、一つの機械として稼働して高付加価値を発生させたことに対する評価金額であつて、本件装置を構成する各機械の各代金から成るものではないし、これを特定・識別することもできないものである。

したがつて、本件装置の代金は、本件ラインフィーダーの価値代表(代替物)に該当しないものであるから、本件ラインフィーダーの売買代金をもつて、本件装置の代金に物上代位としての効力を及ぼすことはできない。

2  原告のした約束手形金債権を被保全権利とする仮差押えは、民法三〇四条一項但書にいわゆる差押えには該当しないものというべきである。すなわち、仮差押えは、強制執行保全を目的とするものであつて、これを担保権実行手続に流用することは許されないからである。

四  被告及び補助参加人の主張に対する原告の認否

右主張のうち、被告が破産者に対し、本件装置を発注し、破産者がこれを完成して、破告に対し、引き渡したことは認めるが、その余は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一〈証拠〉によれば、請求原因1の事実が認められ、他にこの認定に反する証拠はない。

二ところで、動産売買の先取特権は、動産の代価及びその利息を被担保債権として、その動産の上に存在する(民法三二二条)のであるが、債務者がこれを第三取得者に引き渡した後は、その動産について右先取特権を行使することはできない(同法三三三条)ところ、右動産が他に売却等されたときは、その売却等によつて債務者が受けるべき金銭等に対してもこれを行使することができる(同法三〇四条一項)。

しかして、先取特権の効力の及ぶ物上代位の対象物とは、その目的物の全部又は一部に代わる代替物であり、これを直接代表するもの(価値代表者)に限るというべきであつて、目的物の価値以外の価値を包含する場合はこれに該当しないと解するのが相当である。そうして、ある製品を売却した場合の代金は、この製品を直接代表するものということはできるが、特段の事情がない限り、これを構成する各部品の全部又は一部を直接代表するものということはできず、製品の代金は、部品の価値以外の価値を包含するものというべきである。

してみると、部品を売却したにすぎない者がこの部品の売買代金をもつて、製品の代金に対し、動産売買の先取特権の効力が及ぶものとしてこれを行使することは、原則としてできないものといわれなければならない。この理は、右部品が製品の構成部分であることが特定・識別され、毀損することもできなく、容易に分離することができる場合であつても異なるものではないというべきである。

そこで、本件について考えると、原告の破産者に対する本件ラインフィーダーの売買代金五九〇万円についての先取特権は、本件ラインフィーダーの上に存在するものであるところ、破産者において、訴外会社を通じて本件ラインフィーダー等の部品等を合体、取り付けて本件装置を製作し、これを被告に引き渡したことは当事者間に争いがないから、破産者と被告間の契約が売買契約であるか請負契約であるかはともかく、原告の右売買代金債権をもつて、本件装置の代金二八八〇万円に対し先取特権の効力が及ぶものとするには、右代金二八八〇万円が本件ラインフィーダーの全部又は一部を直接代表するものであり、本件ラインフィーダーの価値以外の価値を包含しないものと認められなければならない。しかるに、原告の主張に照らしても、本件装置の代金は、本件ラインフィーダーと本件コンベア(代金一七六〇万円)及び本件供給機の代金並びにこれらを接続組み立てた経費及び運賃等の諸経費並びに破産者の利益から成るというのであるから、本件装置の代金は、本件ラインフィーダーの全部又は一部を直接代表するものということはできず、本件ラインフィーダーの価値以外の価値を包含しているものであるといわざるを得ない。しかも、〈証拠〉によれば、本件装置の代金は、これを一つの製品化した機械として評価した結果、金二八八〇万円と定められたものであることが認められるから、本件装置の代金は、単純に原告の売り渡した本件ラインフィーダーのみを直接代表するものとは到底認めることができない。

なお、原告は、本件ラインフィーダーを毀損することなく容易に取り外すことができるから、独立の商品として、破産者から被告に対し売却されたものというべきである旨主張するが、本件ラインフィーダーがもともと単体として取引の対象になるものであるとしても、破産者が被告に対して引き渡したのは、本件装置であつて、これを構成する各部品を独立して取引の対象とした趣旨でないことは弁論の全趣旨から明らかであり、また、本件全証拠によるも、右主張事実を認めることはできないから、右主張は失当である。

次に、原告は、本件装置の代金のうち、本件ラインフィーダーの代金に相当する部分は明確に判別できる旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、〈証拠〉によれば、本件装置全体についての代金額が明示されているのみであつて、本件ラインフィーダーの代金部分が明確に判別できるものではないことが認められる。もつとも、前掲甲第七号証の二によれば、破産者から被告に対する本件装置の見積り額は、本件ラインフィーダーが金六一八万円、本件供給機が金二九〇万円、本件コンベアが金八九〇万四〇〇〇円であり、その他据付工事金二六二万五〇〇〇円等の合計金二八八〇万円である旨の記載があることが認められるが、これをもつて、いまだ、本件装置の代金のうち、本件ラインフィーダーの代金が明確に判別できるということはできないから、右主張は失当である。

また、原告は、本件ラインフィーダーを本件装置から毀損せずに分離可能であつて、これを特定・識別できるから、本件装置の代金には、本件ラインフィーダーをも直接代表している部分が含まれていることとなり、この部分については、先取特権の効力が及ぶものというべきである旨主張する。しかしながら、仮に、本件ラインフィーダーを本件装置から分離し、特定・識別することができ、また、本件装置の代金には実質的に本件ラインフィーダーの価値分が含まれていると考えられるとしても、本件装置の代金は、前述のように、本件装置を直接代表するものではあつても、その構成部分である本件ラインフィーダーを直接代表するものではなく、本件ラインフィーダーの価値以外の価値をも包含していることは明らかであるから、右主張はいずれにしても失当である。

してみると、本件装置の代金は、本件ラインフィーダーを単純に破産者から被告に売却した場合の代金ということはできず、これが民法三〇四条一項にいわゆるその目的物(本件ラインフィーダー)の代替物(価値代表者)ということはできないから、原告は、本件ラインフィーダーの売買代金をもつて、本件装置の代金に先取特権を行使することはできないといわざるを得ない。

三以上の次第であつて、その余の点につき判断するまでもなく原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用及び参加によつて生じた費用につき、民訴法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官後藤邦春)

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